そんな俺の心を見すかしたように、
「だめだだめだだめだ。ハハハハハ。この歯はやれないよ。ハハハハハ」
とマスターはいった。
十七歳。
はっきりいって俺は渦巻いていた。
だれが渦巻かずにいられるだろう。
十七歳だった。
顔面は思春の畑ニキビ面
灼熱の息を吐きながら俺は日々生きていた。
息づいていた、大日本帝国の片隅に。
「や、あなたは先ほど競馬法でボロボロに負けて大泣きしていた若者ですね」
と話しかけてきたのは四十。もしくは、五十歳くらいの丸メガネ。
「このバーにはよくいらっしゃるんですか?」
と丸メガネはきいた。
俺はこたえた。
「うるせえ老人だまれ話しかけんな息がくせえ。俺、お前みたいなしなびた男はだいきらいなんだよ。ナスビか。やい、お前は天日干しにされてショボショボになったナスビか。おい。勝手に歴史的事実をねじ曲げてんじゃねえぞオッサン。たしかに俺は競馬でボロボロのボロに負けはしたけど涙は一滴たりとも一ナノリットルたりとも流さなかっただろうがこら……いや、ごめんなさい。初対面の方に私ったらなんて失礼なことを言ってしまったのかしら。どうか許してください。ねえあなた、私を許してくださりますか? 許さないと言うならこうだ。くらえ、初対面の方の肩をバーン!」
俺は金歯のチャーミングなマスターの胸板で初対面の方の肩をバーンしてやった。
「うわあ」
といってバーンをくらった男はひっくり返った。
「痛い痛い。へへ。さすがはタヌキ様だ。鬼のようなパワーだ」
といいながら男は床にめりこんだ足を苦労して引き抜いて、服についたホコリを払いながらこんな句を詠んだ。
バクダンは濁点取ればハクタンだ