「いいから開けなさい。早く」
山本がドアノブに手をかけ、何度も回す。
「だから、分からない人だな、あなたも。物事には順序ってもんがある。せっかく開ける気持ちが湧いてきたのに興醒めだ。それに本物かどうか分からないでしょ?そりゃ、ここから見れば制服を着ているように見える。でもね、世の中には色んな人がいる。その中には制服が好きという人もいる。いや、その趣味を否定しようってんじゃない。ただお二人がそんな趣味をお持ちの仲間で、ふざけて人の家に入って来ようとしているのかもしれない。それだけならまだしも、強盗だ何だって物騒なご時世ですよ」
中田が山本に何か言われ、その場を去った。
山本がドアに近づいた。
「田中さん、田中大輔さん。警察手帳をお見せしますから、ちょっと開けて、お話をさせて下さいよ.」
「それが人にものを頼む態度ですか?警察手帳?それが本物だなんて分からない。いい加減にして下さい。あなたと話すことはない」
「そんなこと言わないで、開けて下さいよ。少しだけでも」
「いい加減に」
台所の方から窓を蹴破る音が聞こえた。
包丁を握り直し、駆け出す。
台所で辺りを見渡している中田がこちらの存在に気付いたのが分かった。
そんなことはお構いなく包丁を構え、駆けた勢いをそのままに中田に突っ込んでいく。
「止まれ!」
中田の警告を聞くはずもなく、むしろ加速していく。
「順序ってもんがあるだろ!」
「止まれ!撃つぞ」
中田が拳銃を抜き、構え、銃口を上に向けて威嚇射撃をした。
銃声に怯むことなく、突っ込んでいく。
中田は銃を素早く構え、四発撃った。
その内の二発が命中。
包丁は手元から転がり、勢いをそのままに体ごとテーブルに突っ込んだ。
イワシと大根と米粒が顔面に降り注ぐ。
中田が銃を構えたまま近寄る。
ピクリとも動かない。
「おい、田中」
顔面のイワシと大根を払い落とすと目を開き、中田の姿を確認した。
そして、撃たれ出血をしている傷口に触れ、その手をゆっくりと目の前に持って行った。
「汚ねえ」
小さく言って死んだ。