玄関からチャイムの音が聞こえた。
それを無視して、再び自分の足を温める。
二度目のチャイムが鳴ると同時に玄関が強く叩かれ、大きな声が響く。
「開けて下さい。警察です」
その声を聞き、男に刺さった包丁を抜く。
血が少しだけ吹き出した。
包丁を握り、浴室から出て玄関に向かう。
「開けて下さい。警察です」
ドア越しに二人の男たちの声が響く。
それをじっと立ったまま聞いている。
「うるさいな」
「開けてもらえませんか?」
すりガラス越しにこちらを確認しているのが分かったらしく男たちの声は一層大きくなった。
「そこにいるんでしょ。開けて下さい。田中さん、田中大輔さん。開けてもらえませんかね。いるのは分かっているんですよ。ねえ、ほら、さあ、早く」
男の一人がドアポストを開こうとするがガムテープで閉じられているため、強く押して破ろうとしてくる。
「止してくださいよ。そんな鉄砲みたいにポンポン言わないで下さい。物事には順序ってもんがある。確かにあなたたちは警察なのかもしれない。しかし、証拠はない。せめて名前と所属くらい言いなさいな。まあそれが本物である証拠にはならないけど。それと横柄なのはいけませんよ。やっぱり、こちらは『警察』と聞いただけで怖がってしまう小市民なのですから」
ドアの向こうの二人が顔を見合わせ小声で相談しているのが分かった。
「K県警Y署の中田巡査です。開けて頂けませんか?」
「そうそう。魚心あれば水心あり。良い感じです。それに、中田さん。何と私と同じ似たような名前だ。妙に親近感が湧いて、ついドアを開けたくなる。でもね、ほら、中田さんのお隣のあなた、あなたはどなた?」
中田の隣の男が声を出した。
「K県警Y署の山本巡査」
「声からするとお二人ともお若いが、山本さん、あなたの方が先輩かな?こういうことは後輩に指示を出すんじゃなくて、先輩から手本を示さないと。警察官なら警察官らしく」