「同士だとっ…やはり、外の者はお前が手引きしたのか!!」
「吾が君」
風のようにふわりと、女は帝の肩に手を置いた。術をかけられたように、帝は床に腰を降ろしていた。
「わたしがお側へ上がったばかりの頃、吾が君は、一つのお話をしてくださいましたね。
…覚えていらっしゃいますか?」
『余は昔、金色の龍を見たことがある。雨降る夜、余の枕元に現れた龍は、余に一つの命を下した。…余はそれが信じられず、そなたと出逢うまで、龍のことすら忘れていた。
だが…おかしなものよ。かつてはあれほどまでに不快であった命が、今では、従うのが待ち遠しいとすら思えるのだから』
「忘れるものか…あの時初めて、そなたを不思議な女だと思うたのだ」
女は、慈しみを込めた手で、乱れた帝の髪を優しく撫でつけた。
「吾が君はあの時、龍の命とは何か、わたしに教えてはくださりませんでした。ですが、もしそれが吾が君の幸福となるものならば、わたしにもわかると思ったのです。
そうして三年お仕え申し上げて、ようやくその命が、見えた気がいたしました」
その時、女が背にしていた戸が開いた。現れたのは精悍な若者達。宮廷の者を見慣れた帝の目に、彼らは眩しく映った。若者の一人が前へ進み、帝の前で膝をついた。
「我々は、龍の意志を継ぐ者。
帝。政を宮廷から離し、我々にお託しください」
若者達の向こうの、夜とは思えぬ明るさは、多くの篝火が宮廷を囲んでいることを物語っていた。
「他の者は……何処に」
「帝を利用しようと目論んだ者は捕らえております。他の者は、逃れていきました」
別の若者が、恭しく答えた。
全て、女の指示のもとに行われたものであった。帝を守ることに己をかけてきた女は、宮廷内のあらゆる動きを、長い時をかけて少しずつ、しかし確実に、掴んでいたのだった。
「利用か……あぁ…そうであろうな」
力なく呟き俯いた帝に、女が寄り添った。