「・・・・・」
「ねぇ、糸がついていたって、私にも意志はあるのよ。まぁそれも、あなたが与えたものだけど」
「やめないで」
「いつだってやめられるわ」
「お願い」
「こんな、糸をつけるなんて」
「でも、どうしようもないんだ」
「そうね。どうしようもないわ。糸がなければ、私もう踊れないもの。変な人。こんなものを、何度も見たいなんて。ねぇ、わかってる?それって、手に入らないからなのよ」
「ああ」
「ただ、それだけのことなのよ」
「ああ」
「ただの喪失中毒だわ」
「ああ」
「どうしてなの?」
「・・・・・」
「どうして、そうまでして覚えているの?」
「・・・・・」
「また、答えないのね」
そう、僕は答えない。だって君の声は、僕には聞こえない。君はとうの昔に、美しいままどこかへ消えてしまった。僕は君の声を知らない。笑顔だって見たことはない。たった一度のダンス、たった一つの印象。それに糸がついただけ。ただ、それだけ。それだけが、どうしようもなく大きな影を落としながら、同時にこの生涯をつなぎとめている。なんて綺麗な呪いだろう。
彼女は静かに横たわる。凛とした表情は、目を瞑っても変わらない。一曲踊り終えても、その頬は白いままだ。けれど、その丸みを帯びた形が、僕が覚えているものから彼女に与えた口調とは正反対な少女らしさを、彼女に添えている。もしも彼女が失われることがなかったら、僕の中で彼女はいつまでも、こんな風に完璧な形になることはなかっただろう。だから僕は、全てそうだったままにしておくのだ。誰とも分かち合ったりはしない。そうすれば彼女は僕だけのもので、明日になればまた踊ってくれる。明後日も、その次の日も。この季節が終わるまで。そして風の匂いが変わる頃、またそっと、長い眠りにつく。
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