小説

『○取物語』室市雅則(『竹取物語』)

 お爺さんがすぐ側で立ち止まった気配を肌で感じる。
 頭を下に向けているので、汗がつむじへと滴る。
 「切ってみるか」
 鉈を取り出す音が聞こえる。
 血が頭に上ってきた。
 どうか。
 振りかぶる気配を感じ、目を閉じた。
 次の瞬間、瞼を光が照らし、全身で風を浴びて汗が一気に引いた。
 この世界に生まれた。
 「おお」
 お爺さんの感嘆の声を聞き、恐る恐る目を開ける。
 結果が怖くて、下を向くことができない。
 驚いているお爺さんと目が合い、竹の中から取り上げられた。
 そして、太陽に向けて抱え上げて、全身を確認された。
 その視線が股間を通過したことが分かった。
 どうなんだ。
 じっとお爺さんを見つめる。
 何と言うのだ。
 お爺さん。
 早く言ってくれよ。
 お爺さんは笑みを浮かべた。
 「何と美しい女の子だ」
 私は泣いた。

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