小説

『○取物語』室市雅則(『竹取物語』)

 お爺さんは鉈で竹を思い切ってスパッとやるだろう。
 それを狙って、竹と同時にモノを切り落としてもらうのだ。
 まさか中に人が入っているなんて想像しないだろうから、その勢いは加減されていない。
 それが一縷の望みだ。
 そうと決まったなら、切られる瞬間の体勢が重要になる。
 とにかく股間を前方に持って行った方が良いのだろうか。
 試しに膝と背筋を伸ばし、両手もまっすぐに下ろして、気をつけの姿勢をする。
 シャキッとするが、きっとお爺さんは竹を袈裟懸けもしくは真横に切るだろう。
 この体勢であると真っ二つにやられてしまう可能性がある。
 それはマズい。
 であるならばと、大股を開いて、背中を思いっきり反らし、光り輝く股間を突き出した。
 人類史上初のイナバウアーが誕生した瞬間であったが、今は関係がない。
 非常にきつい体勢であるが、これが良さそうであった。
 モノがヨットの帆のように上を向いているので、斜めでも真一文字でも対応可能である。
 ただ万が一、お爺さんが何かを思って垂直、つまり唐竹割りをされたら終わりだ。
 何せ、自分が入っている竹の高さをいまいち分かっていない。
 『竹』と言われて想像するような『竹』かなと思っているけれど、自分にコレがあったくらいなのだから、鉈を振り下ろすのに良い高さに設定されていることもあり得る。
 もしくは、お爺さんの主義や流儀として、『竹は上から叩き割る』という可能性だって捨てきれない。
 真っ二つに切られるくらいなら一生、竹の中でも良いが、もう後戻りはできない。
 もしそうなってしまったら、運命と思って諦めるしかない。
 お爺さんが常人であることを願うしかない。
 神様仏様どうかご慈悲を。
 そう祈っていると竹の向こう側から枯葉を踏みしめる音が聞こえて来た。
 息を殺して、今一度、姿勢を整える。
 反り返り具合も帆の立て具合も十分だ、
 「何じゃ、竹が輝いておる」
 頼む。

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