小説

『ラララ・シンデレラ』木江恭(『シンデレラ』)

なんでなんでなんで!
だって今時男だって
 清潔感とか家事力とか
 スマホで検索、タップ・タップ
 ほら 見てみろよ
みんな言ってる、広告・トレンド・検索ワード
みんな言ってる、みんな、みんな……

なんだよなんなんだよお前ら勝手なことばっか言いやがっておれらのこと何だと思ってんだよ金稼ぐための家畜とでも思ってんのかよそれとも自分のステータス見せつけるためのペットかよ外見より中身とか言った癖にあの顔は生理的に無理とか優しいのが一番とか言った口でセンスのない男にはついていけないとか学歴なんて関係ないとか言っておきながら最低でも国立大卒じゃないと有り得ないとかなんだよなんなんだよ!
おれだって幸せになりたいよ!だから頑張ってるよ!なのになんでなれないんだよ!

ラララ・シンデレラ
ハッピーエンド・灰かぶり
もう ホワット キャン アイ ビリーヴ? ねえ
 助けてほしいよ、フェアリーゴッドマーザー

「素敵なことだと思いますよ」
 酔いで濁った視界にコトリと置かれた細身のグラス。極彩色のマーブル模様が渦巻いている。
「確かに思った通りの結果はまだ出ていないかもしれません。けれどあなたは目標に向けて全力で頑張った。その努力と心意気は必ず報われると、私は思いますよ。まあ、そのパワーを向ける方向を少々変えてみるのも一案だと思いますが」
 歌うように柔らかな声で言いながら、マスターは美しい仕草でグラスを示した。いつの間にかマーブル模様は消え失せて、代わりに七色の縞模様が浮かび上がっている。
「これ」
「ふふふ、綺麗な段々模様になったでしょう。種明かしは無粋ですから慎むとして、これが私の魔法です。なんてことはないささやかな魔法ですが、あなたを少し元気づけるくらいはできますでしょうか」
 新出はノロノロと顔を上げてマスターを見上げた。カウンターに突っ伏していた頬が冷たい。触れると、乾いた涎と鼻水がパリパリと音を立てて剥がれた。
「お疲れ様です。さあ、どうぞ」
 慈愛の微笑みに促され、新出は鼻を啜りながらグラスを手に取った。

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