小説

『そして、黄金の午後へ』山本紗也(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

 僕もつられて欠伸をする。
 さわさわさわ。
 風に揺れて草達がお喋りをしている。
 気付けば、隣でチャシャは寝息を発てている。
 僕は欠伸を噛み殺す。
 さわさわさわ。
 草達のお喋りは続いている。
 僕は大きな耳をたたんで、教授の話を思い出していた。
 教授がいるところは、僕等のいるところとよく似ていて、それでいて似ていないところのようだ。
「つまり、堅苦しくて、不可解なところさ」
 教授は少し顔をしかめた。
「こういったものを、こうであると決めつけると、それが正しいと思い込み、そこから動くことさえも考えようとはしない」
 そして、僕等の顔をゆっくりと眺めて言った。
「どれひとつ、流動的で同じものなどないのにな」
 教授の言葉を理解しようと、僕は重い瞼を閉じた。
 さわさわさわ。
 草達のお喋りは終わらない。

*   *   *   *

 誰が僕の体を揺すっている。
「おい、起きろよ」
 瞼を開けると、チャシャの顔が見えた。
 僕は、自分がどこにいるか考え、そして理解して飛び起きた。
「うわー!たいへんだ」
 チャシャは大きな目をくるくるさせる。
「急げば、まだ間に合うよ」
 僕はチャシャに、挨拶もそこそこに慌てて走りだす。

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