侯爵婦人に別れを告げ、メリー・アンとビリーに先に帰るように言うと、僕はチャシャとゆっくり土手の下の道を歩き出した。
「やあ、やあ、やあ、私達とお茶でもどうです?」
ポットとカップを持った帽子屋に声をかけられたけれど、それはさすがに断った。
しばらく歩いていると、ドードーが後ろから走ってきて、僕達を追い抜いていく。
「そんなに急いでどうしたのかい?」
声をかけると、ドードーはUターンをして僕等のところまで戻ってきた。
「体を乾かしているのさ」
僕は首を傾げる。
「濡れているようには見えないけれど?」
チャシャはドードーの周り回って見る。
「これから泳ぎに行くのさ。今から乾かしておけば、濡れた時に困らないだろう」
「ずいぶん準備が良いのだね」
「堂々めぐりをするのが一番だからね」
ドードーは胸をはった。
来た道を戻っていくドードーを見送り、僕とチャシャは草原の草むらの中で腰をおろした。
「なあ、なあ、なあ、教授の話をどう思う?」
光によって瞳が変わる目で、僕の顔を覗きこむチャシャ。
先ほどまで聞いていたキャロル教授の話の事だ。
マイペースのチャシャが、真剣な眼差しで教授の話を聞き入っていたのを、隣にいた僕は知っていた。だから、僕の本当の気持ちを口に出してみた。
「ヘンテコリンのポンポコリン」
チャシャが草むらの中を転がって笑う。
「その通り」
「自分と同じ種族としか言葉を交わせないなんてまさにナンセンス」
「まったくだ」
「だいたいの奴は言葉を持っているものさ」
「なかには極めて無口なものもいるけれど」