「私?」
アンヌには意味が分からなかった。そんなアンヌに、少女は無邪気な笑顔を見せる。
「うん。あなたが笑ってる」
つまり、それが少女の願望だということ。少女のあまりに純粋な思いを知り、アンヌは言葉が出てこなかった。
「……どうしたの?」
不思議そうに尋ねる少女。答える声はなく、しばらくの間、ただ静かに時が流れる。
「あなた……とんだお人好しね」
「え?」
ようやく口を開いたかと思うと、アンヌはおもむろに言った。
「あなたのマッチ……私が全部買うわ」
「え、全部? でも、あなたもたくさん持っているのに」
「別にいいでしょ! マッチが好きなの! どうせ誰も買わないんだから……お金だって今はたくさんあるのよ」
アンヌはさっき稼いだお金の半分を少女に渡し、半ば強引にマッチの入ったカゴを奪い取った。無造作に渡された大金に、少女は目を丸くする。
「え? こんなにたくさん……」
「それで綺麗な服でも買うといいわ。今の格好ひどいわよ」
「え、そうかな? でも、まだ着られるし、まずはお母さんに何か買ってあげたいな」
服の汚れを払いながら、少女は笑った。
「そう……きっと喜ぶわね」
アンヌも呆れたように軽く笑う。不思議と気持ちは澄んでいて、いつもの毒も出てこなかった。
少女は一層嬉しそうに笑うと、アンヌに手を差し伸べる。
「私の家はすぐそこなの。温まっていって。大したものは出せないけど、ちゃんとお礼もしたいから」
「別に何もいらないわ。それに……何だか今は寒くないの。でも、そうね。少しだけ寄って行ってあげる」
アンヌは差し出された少女の手を握った。
マッチ箱の山を賑やかにカタカタ言わせながら、二人の少女は並んで歩く。歩きながら、アンヌは最後の魔法のマッチを擦った。二人で一緒に覗き込む。しかし、すぐにそれが大して意味のないことだと知った。マッチの火が映したのは、笑い合う二人の少女の姿。不思議な魔法のマッチも、今の二人にはただの鏡と変わらないのだ。それでもその小さな火は、アンヌの心を確かに温めていた。