小説

『(有)桃太郎出版社』吉田大介(『桃太郎』)

「何ばしよっと、桃太郎。器にゴマのかすがまだ付いとろうが!」
 雉子牟田の檄が桃田にとぶ。
「ダメやったらケツをまくればいい」
 出版社時代、これが口癖だった桃田が一心に皿を洗う後姿を見て、猿橋は、
「流れ流されどんぶらこ、人生、どこへ流されて行くか分からんもんやな」
 独りごち、すると文字通りケツをまくった桃田の、ぷりんぷりんとした尻が脳裏に浮かび、川に浮き沈みする桃のようなその映像は、いつまでも彼の頭から離れない。

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