「電話帳で探してみます!」
犬山は慌てて立ち上がり、棚に分厚いそれを取りに行った。自分は個人名版、猿橋には企業版を渡し、猛烈な勢いでページをめくる。
「ああ、普通に木島とかいっぱいいますね」
犬山がすぐに見つけた。
「社長、途中にキジが入っとうのなら築地さんって方もおりますね」
猿橋が気付き、遠慮がちにそう言った。
「そうやなあ、どうも当たり前すぎるな、木島や築地では。ウチらみたいにそのまんまの字を使っとる苗字はないんかい」
「おっ、おっ、マジか。これヤバいっすよ」
犬山が何かを発見したようだった。
「そげんホントの雉(きじ)がつくもんがおったと?」
「雉子牟田(きじむた)俊夫ってのがいます。しかも・・・」
どや顔となった犬山は桃田と猿橋を交互に見る。
「なんや、どこに住んどるん?」
桃田の顔は小判の詰まったつづらを発見したような興奮面となった。
「雉子牟田俊夫、カッコ、(豚々ラーメン)」
犬山が謎解き探偵の口調でそう告げると、桃田と猿橋の表情が固まった。
「豚々ラーメンて隣やないか。あのおっさんキジムタ言うんか」
気を失いそうな偶然に一同、気味の悪さを感じながらも、決まればさっそく行動。午後三時半、全く腹もすいていなかったが、五分後には三人、豚々ラーメンのカウンターに肩を並べていた。
「おまえから切り出せや」
桃田が右隣の犬山をせっつく。犬山は口を開けて桃田を見たまま何もできない。すると左から猿橋がどもりながら桃田にささやく。
「わ、私が言います。フォローば頼みます」
「お、おお。まずラーメン頼んでからや」
桃田が制止した。
「ラーメン、バリかた三つ・・・でええな」