「やっぱり、ですよ。素晴らしい指輪です。そして、本当に良いご夫婦だったのでしょうね」彼はそっと指輪を香炉に戻して、手を合わせ一礼した。「それじゃ、失礼します」
来るのが急なら、帰るのも急だった。タッタッタと軽快に駆けて黒い車に乗り込んでいった。そのまま行くかと思ったが、窓ガラスを開けて顔を出した。
「今度、うちの祖父のコレクション見に来ませんか」
びっくりしたまま首肯で返すと、満足そうに笑って彼は走り去っていった。
お墓に向き直る。この一組の指輪は今度納骨棺に納めてもらおう。灰かぶりのまま野ざらしにするのは嫌だし、誰かに取られないとも限らない。納骨棺はどうやら自分では開けられないタイプのようだから、業者に相談するしかなさそうだ。
さきほどの彼と同様に、ウェディングリングを眺める。今までだって美しいものだとは思っていたが、ただの思い込みかもしれないという一抹の疑いが薄いヴェールのように輝きを妨げていた。後押しを得て向き合った指輪は、やはりどこまでも美しかった。
おばあちゃん王子は、もうシンデレラくんを見つけただろうか。その時はこのウェディングリングがガラスの靴の役割を果たすのだろう。当時は金銭に余裕が無かったためか、祖父母のウェディングリングは祖母の持つこの指輪だけだった。このブルーのダイヤモンドはシンデレラが着けるのだろう。対の指輪をつけて微笑む二人が容易に想像できた。そしてきっと二人は幸せに暮らしていくのだろう、まるでおとぎ話の締めくくりそのままに。すなわち、「二人は永遠に幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」。