小説

『野ばら』化野生姜(『野ばら』)

老人は疲れた表情で頭をふると、表に出ることにしました。
そうして石碑の辺りまで歩きますと、つい今しがた、表に出たばかりと見える青年とばったりと出くわしました。青年と老人はお互いにしばらく黙っていましたが、やがて誰ともなしに空を見上げました。

空は、まるでなにごともないかのように澄んでおりました。
果たして、その空の向こうで激しい戦闘が行われているなど、とうてい信じられませんでした。そうして二人は、再びいつものように話をはじめました。
今日の天候や、支給されたドローンの小さな不具合といった、あたりさわりのない内容でした。しかし、じわりじわりと二人の心の隅には暗い戦争のことが思い出されておりました…。

その一週間後、再び雪が降り始めました。
そのとき老人は青年の家へと足早に向かっていました。
いつもとは違い、軍服姿の老人はどこか思い詰めているようでもありました。
そうして老人は、ふと、通り道の途中にある石碑を見つけますと、そこで足を止めました。石碑の周りには雪を被った野ばらがありました。
花の一部が雪の重みで地面に落ちて、花びらを散らしているものもありました。
老人はそれをしばらく見つめたあと、再び青年の家へと歩き出しました。

突然の老人の訪問に、青年は少し驚いた様子でしたが、すぐに落ち着いた様子で椅子をすすめると、お茶の用意をはじめると言いました。
しかし、老人はその申し出を断ると、机の上に何か重たいものを置きました。
その置かれたものを見て、青年は息をのみました。
それは、老人の星で作られた、小型のビーム銃だったのです。
それを見せたあと、老人は少し寂しげな顔で微笑みました。

「この銃で私を殺すと良い。戦争が始まったあと、君の星のことを調べさせてもらった。無礼を承知で言うが、いま君の立場はあやういところにある。そうだろう?」

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