小説

『野ばら』化野生姜(『野ばら』)

老人はそれを見るとほんの少しだけ悲しそうに目を細めました。

「…あ!雪が降り出しましたよ。」

ふいに青年が老人に呼びかけ、老人は、はっと顔を上げました。
見れば、青年が窓を見ているところでした。老人も同じようにそちらの方向を見ると、確かに白い雪がはらりはらりと降っています。
青年は、それを見てため息をつきました。
「ああ、また気象コントロールセンターが故障を起こしたのか。これじゃあ当分は外に出られませんね。」
そう愚痴をつぶやく青年に、老人は静かに外を見つめました。

気象コントロールセンターは、時々このような不具合を起こしました。
それは昔、この星を持っていた貴族がその権利を放棄してからずっと二つの星の偉い人たちが、どちらがこの建物を所有するものかをもめていたせいでもありました。そうして、お互い話し合っては決裂し、また話し合っては決裂を繰り返し、そうしているうちに設計図が行方不明になり。とうとう、それを直せる人がだれもいなくなってしまったのです。

「ああ、早く故郷に帰りたいな。」

老人は積もり始めた雪を見つめながら、ふと、故郷の大きな星にいる、自分の家族のことを思いだしました。そうしてうっかり、青年のいる前で口をすべらせてしまいました。

すると青年はあわてたように老人に駆け寄り、首をふりました。
「そんな寂しいことを言わないでください。きっとすぐ冬も終わるはずです。今までだってすぐにまた春の気候に戻ったじゃありませんか。」
しかし、青年は自分たちの立場を思い出したのか、急にはっとした顔をすると床に視線を落とし、切なそうに声を落としました。

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