小説

『野ばら』化野生姜(『野ばら』)

しかし、そのゲームの中に過去の軍事アーカイブズが入っていることを知るやいなや、青年は過去の軍事戦略を洗い出し、その中から老人の知らないような新しい戦法をいくつも編み出すと、老人からいくつもの勝ちを奪えるようになったのです。

そうして今回も、映し出された大量のドローンが、渦を巻くように敵将をはね飛ばしたところで、老人は感心した声をあげました。

「ほほぉ、もしこれが本当の戦争だったら。私が負けていたに違いない。」
その言葉に青年も得意そうに微笑むと、手前に置いたタッチパネルを操作して立体映像を停止させました。そうして、動きを停めたドローンの映像を老人はしげしげと眺めました。それはまるで、戦いに勝利をおさめた国がその決定的瞬間を一時も忘れないようにと作らせたモニュメントのようにも見えました。

「ふーむ。これもずいぶんと古い文献から持って来たようだの。それも、あの奥に積まれた本の中から持って来た戦法かい?」

すると、青年は照れたように笑い、後ろにある積まれた本の山を見つめました。
そこには、合成樹脂でできた多機能型ディスプレイではなく昔懐かしいパルプを使った装丁本が積まれていました。それらは、みなひどく傷んで古びてはいましたが、重厚感と暖かみのある外観をしていました。
そうしてそれは、青年が自分の土地を散策した際に持って帰った、貴族の隠し書庫の中身でもありました。

「ええ。この本に載っている小さな島国が、まだ統一される前にあみだされた戦法でして、ここの当主は自軍の兵士を車の車輪のように敵陣に当てることで相手を消耗させる方法をとっていたらしいのですよ。それで自分もまねしたくなりまして…。」

そう言うと、青年は目をキラキラさせながら本で見た戦法を自分がどのように自軍に組み込んでいったのかを、じつに楽しそうに語り出しました。
老人はそれにうなずきながらも、ちらりと青年のベッドの周りに積まれた本に目をやりました。その本のほとんどが軍記ものの本でありました。

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