そうして、青年は石碑の周囲にある野ばらの匂いをかぐと、老人に微笑みかけました。老人も、無意識のうちに同じように微笑み返していました。
そうして、青年は敬礼をすると再びヘルメットをかぶり直し、再び垂れ下がって来たワイヤーにつかまると、その姿はすぐに空に登って消えて行きました…。
そうして老人が目覚めてみると、果たしてそれは夢でした。
春の陽気の中で、野ばらは咲きほこり、その周囲をミツバチが飛んでいました。
老人は石碑の前で呆然としながら空を見上げました。
それからしばらくして、老人は暇をもらって故郷に帰ることになりました。
石碑の周りの野ばらは、すでに枯れてしまいました。
しかし、老人の手には、残り少ない荷物とあの青年と同じように石碑の周りで掘り出した一株の野ばらの入った容器がありました。それは今も美しく花を咲かせています。
そうして、老人は空を見上げました。すると、いつかこの星をたずねて来た旅人の宇宙船がやってきました。老人はそれに乗せてもらうと、自分の故郷の星に行く前に、まず青年の住む星の名前を告げました。すると、運転手である旅人はそれを了承し、そしてふいに思いついたように老人に一つの噂を打ち明けました。
それは、あの宇宙船の事件でのあと、船の残骸で、宇宙ゴミであるスペースデブリを回収する回収屋の中でささやかれている噂でした。
その内容というものは、宇宙空間内の破片を掃除していると、一株の野ばらに遭遇するというものでした。それは、宇宙船の跡にいまでも漂い、枯れることもなく美しい花を咲かせているのだといいます。