ただ、ひとつだけはっきりしていることがありました。
戦争は、小さな国の負けでした。その国の兵士全員があの戦地の星におもむき、そうして捕虜にされていたのですから、兵士が死んでしまった以上もはや戦争を続けることはできなかったのです。
老人は震える手でディスプレイを閉じると、旅人にお礼を言いました。
そうして旅人の乗る船が小さくなると、ぐったりと石碑に腰掛けました。
電子ペーパーを持つ手は力なく膝に置かれ、老人はまるで自分が何十年も老け込んでしまったかのような気分になりました。
そうして、気象コントロールセンターは、まだ春の気候を再現していました。
ぽかぽかとした陽気は、老人の背中をゆっくりと暖めていきました。
そうしていつしか老人は、うつらうつらとその場で眠ってしまったのです。
夢の中での老人も、やはり石碑に座っておりました。
周囲では、野ばらのほのかな香りがただよっています。
そのとき、ふいに老人は周囲が暗くなるのを感じました。
見上げると、何かが空を覆っています。
それは、大型の宇宙船のようでした。
そうして、老人が驚いていると、ふいに空から一人の宇宙服を着た人物がワイヤーロープを使って、こちらに降りて来るのが見えました。
老人はその服装を見て、それが軍から支給された宇宙服であることに気づきました。やがて、その宇宙服を着た人物は、老人のほんの数メートル手前で降り立つとヘルメットを脱ぎました。
それを見て、老人は驚きました。
果たして、その顔はあの青年のものであったのです。
そうしてよく見れば、青年は小脇に何かを抱えていました。
それは、あの青年の家で見た野ばらの一株であったのです。