小説

『神かくしにあった少年』小笠原幹夫(『諸国里人談』)

むかし、もろこしの邯鄲かんたんの町で、盧生ろせいという青年が呂翁りょおうという道士どうし修験者しゅげんじゃ)から枕を借りて眠ったところ、富貴ふうきをきわめた五十余年を送る夢を見ましたが、目覚めてみると、枕もとの黄粱こうりょう大粟おおあわ)もまだ炊き上がっていないわずかの時間であったというのです。この小僧は、もしかしたら、邯鄲の枕で眠った盧生と同様の経験をしたのではなかったでしょうか。盧生が夢から覚めてみると、五十年もの時間が炊きかけのご飯がまだ出来上がっていない間のことだったのですが、この小僧の場合も、一ヶ月余の生活をほんの一瞬で経験してしまったというわけです。

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