小説

『王子さまの手紙』和織(『星の王子さま』)

「うん」
「そりゃありがたいね、さっそく一人見つかったよ。ではあとで、おれの星に案内しよう」
 実業屋の嬉しそうな顔を見て、うぬぼれ男は今までにない気持ちになりました。相手の顔を見ていて自分もうれしくなるなんて、はじめてのことでした。うぬぼれ男は、はじめて誰かの役に立って、はじめて心から感心されたのでした。そして、感心されようとしてすることになんて、誰も感心してくれないのだということを知りました。
「ではそういうことでいいかね?王さま」
 地理学者が言います。
「それは、よいことなんだな?」
 王さまは、疑うように地理学者を見ました。
「もちろんさ、よいことに決まってる。ものごとをよくするための命令を出すなら、あんたはすごくよい王さまだ」
 それを聞いて、王さまの顔つきはがらりと変わりました。よい王さま、と言われて、うれしかったのです。
「おお、そうか、ではそうしよう!」

 実業屋は点燈夫になってくれる人々を探し、彼らに自分の星で働いてもらいました。自分の持っているものが役に立ったのだと思うと、それまで実業屋の中に残っていたむなしさは、きれいさっぱり消えていきました。うぬぼれ男は、もう感心されることにはすっかり興味がなくなり、働くことを楽しむようになりました。つまり、もう「うぬぼれ男」ではなくなったのです。王さまは、もっといい王さまになるにはどうしたらいいかと考えるようになりました。呑み助は、相変わらずいつまでも酒を飲んでいます。点燈夫は、休みをもらえるようになったおかげで、やっと眠ることができ、地理学者に手紙を書いた金の髪の少年に心から感謝しました。地理学者は、地球へ行って、探検家になりました。
 王子さまが地理学者へ書いた手紙には、地球で見たさまざまなことが書いてありました。日入りは地球で見ても素晴らしいものだということ、自分の星と比べて地球がどのくらい大きいかということ、それから、地理学者にとって新たな発見になったことも数々ありました。しかし地理学者を探検家へと変えたのは、そういった情報ではありません。それは手紙の最後の部分にありました。そしてそれは、やはり実際に自分で地球へ行ってみないとわからないものなのだろうと、元地理学者の探検家は思ったのです。

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