小説

『王子さまの手紙』和織(『星の王子さま』)

 やっと着物を整え終えた王様が、無理に低い声を出してそう言いました。
「家来?あのぼうやが、王さまの家来だって?いや、あの子はそんなこと言っていなかったですよ。それに王さまの家来が、自分の自由に旅なんてしないでしょう」
 実業屋がタバコの火を消しながら言いました。本当のことを言われて、王さまは顔が真っ赤になってしまいました。
「わしは寛大な王さまなんだ!あの子が旅をしたいと言うから、そうできるように、命令を出してやったんだ!」
「わかりました。わかりましたよ。そうなんでしょう。あなたが、「自分が王さまだ」と言ってしまったから王さまになったように、あなたがそう言えば、そうなんでしょう」
 実業屋は王さまをなだめるようにそう言いながら、ああ、本当にこれは下らないことだと思いました。王さまを見ていて、実業屋は昔の自分を思い出しました。あの金の髪の少年に会う前の自分です。ひたすらに星を集めて、その数ばかり数えて、そうしておきながら、持っているもののことを、何も考えようとしなかった自分のことです。
「よし、おれも一緒に探してあげよう」
 実業屋は言いました。
「へ?でも、一体どうして?」
 うぬぼれ男が驚いた顔で言います。
「どうしてって、星を集めることをやめちまって、おれはもう暇だからね。それにもう一度あの子に会ってみたいんだよ」
 実業家がそう言ったのをきいて、うぬぼれ男も、やっと自分がどうしたいのかわかりました。なんてことはない。うぬぼれ男だって同じように、ただもう一度あの少年に会ってみたかっただけなのです。

 三人は点燈夫の星を通り過ぎました。星が小さすぎて、とてももう一人分のスペースはなさそうでした。それに点燈夫はとても忙しそうにしていたので、実業屋が離れたところから声をかけるだけにしました。
「お―いあんた!金の髪をした男の子を見なかったかい?」
 しばらく待っても返事がありませんでした。点燈夫はずっと、街燈に火つけたり消したりを繰り返しています。しかし三人が諦めて行こうとしたとき、点燈夫は一瞬、火つけ棒をある方向へ向けました。それはあの少年が通って行った方角を指していました。三人は点燈夫へ手をふって、そちらへ進んで行きました。

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