小説

『評論といふもの』遠藤大輔(芥川龍之介『沼地』)

「芝居には、よく分からないけど、何だか感動したってことがあると思うんだけど」
「確かにそういう作品はあります。けど何だか分からないまま終わった作品もあります」
「それは受け取る側の、感性の問題じゃないかな」
「評論家の方って、よく分からない作品を、分からないって書くと評論家として『恥』って思ってしまうのか、逆に良いように書く傾向にあるんですよね。でもお客からしてみたら分からないものは分からないから、つまんないだろうって。先程あなたがうまく説明できないと言ったのが、いい証拠だと思うんですが」

 彼は、私に反論する間を与えずに続けた。

「この作品は駄作です」

 私はそのままノートを閉じた。

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