「それではわしの威厳はどうなる?」
「わしの威厳? だって、あんたは王を辞めたんでしょう? 王としての公務が煩わしいものだから、それから解放されて気ままに暮らそうと企んで王を辞めたくせに。それが王を辞めた動機のくせに。卑しい動機のくせに。それでいながら王としての威厳は残しておきたい? 武力を保持して影響力を残しておきたい? 何かあったらすぐ王に返り咲けるようにしておきたい? そんな自分勝手が許されるわけないでしょうが」
「わしは自分の領土を、財産を、分け与えてやったんだぞ。それなのに」
「領土だろうが財産だろうが、死んだら冥土までは持って行けないのよ。いずれ遅かれ早かれ子供が引き継ぐものなのよ。引退したのなら、おとなしく庭いじりでもしてればいいのよ。そうすれば誰も文句を言わないのだから。それが白髪頭の年寄りに相応しいのだから。みんな安心するのだから。それを爺ィのくせに変な野心を残しているから、おかしな事になるのよ」
「元々は全部わしの物だったんだぞ」
「そんなら引退しなければ良かったのよ。ずっと王のままでいれば。引退したのならスパッと身を引いて、後はぜんぶ子供たちに任せる。それが親の美学ってものよ。あんたみたいに辞めたのに辞めていないみたいな中途半端なのがいちばん見苦しいわ。美学が無いのよ、あんたには。みっともないのよ、あんたという人間は」
「わしは王じゃ。王なんじゃ」
「そうね、王ね。名前だけの王ね。影法師の王ね。あんたにお似合いの冠をあげるわ」
コーディーリア姫は草で編んだ冠を取り出した。
「これは今日の昼間、わたしが父上のために庭の草を編んで作った冠です。今の父上に最も相応しい冠です。今日からこれをその禿げた白髪頭の上に載せて王の威厳を示しなさい」
そう言ってコーディーリア姫は草の冠をリア王の頭に載せた。
「まぁ、よくお似合いですよ、お父さま」
リア王は悔し涙を流した。