小説

『リア王異聞』黒田女体盛(『リア王』)

 リア王はそう言うと頭から布団を被って寝ようとした。しかし、コーディーリア姫は冷たい口調で
「まだ話が終わってないわよ」
 そう言ってリア王の掛布団を乱暴にめくり上げた。リア王は小さな悲鳴を上げた。
「どうしても父上に言っておきたいのは、母さんの事です。あんた、母さんにどんな仕打ちをしたか分かってんの? え、分かってんの? よそでさんざん女を作っては母さんを悲しませ、母さんが病気で倒れた時も、あんたは平気で女と遊び呆けていたじゃないの。一体どういう神経してんのよ? おれ様は何をやっても許されるのだと自惚れていたわけ? 自分さえ愉快な思いが出来れば、他の人間なんかどうなってもいい、そう思っていたわけ? どうなのよ、え? どうなのよ?」
「わしを責めるのは、もうやめてくれ」
 リア王はそう言って布団に顔を埋めたが、コーディーリア姫は容赦しなかった。
「もうやめてくれ? あんたじゃないの、こういう話をしようと言い出したのは。万事が自分勝手なのよ、あんたは。自分から言いだしておいて旗色が悪くなったらもうやめよう、ですって? そんな我儘が許されると思っているの?」
「わしは頭が痛いのじゃ。だから寝かせてくれ」
「頭が痛い? それは心が痛いの間違いよ。あんたは頭じゃなくて心が痛いのよ。わたしに本当の事をこれだけズバリと指摘されたら、そりゃあ心も痛くなるわよね。つまりその痛みの分だけ、あんたがこれまで非道なおこないをしてきたという証拠なのよ。痛いでしょう? ね、心が痛いでしょう? うんと苦しみなさいね。いい気味だわ。あんたには苦痛がお似合いよ」
「おまえたち姉妹は三人でわしを苦しめようというのか?」
「失礼な。わたしたちは無実の人間を苦しめるような、そんな無体な真似はいたしません。それだけの理由があるから苦しめているのです。よくよく考えてみれば、姉さんたちの仕打ちだって、そんなに理不尽なものだったかしら? だって、あんたは引退したんでしょう? 王であることを辞めたんでしょう? それなのに、なぜ百人もの従者が必要なのよ?」
「王であったわしにはそれだけの人数が必要なんじゃ」
「だって百人と言えば、ちょっとした軍隊よ。その気になれば戦争を仕掛けられる人数だわ。しかも、その長は、その時の気まぐれで何を仕出かすか分からない、あんただしね。そんな危険な軍団にそばでウロチョロされてごらんなさいよ。姉さんたちじゃなくても解散させようとするわよ」

1 2 3 4 5