小説

『浦島先輩と太郎』大前粟生(『浦島太郎』)

「最後って意味です」
「あぁ」
「浦島先輩が亀を助けるんですよ」
「それ、はじまりじゃね?」
「いいんですよ。編集でなんとかしますから」
「あ、そう。わかんないけど。なんで亀助けんの?」
「ええと、そりゃ。ヒーローだからですよ。浦島先輩は。俺たちの」
「へぇ」
「そうだ」とヒメがいった。
「ヒメ、これぁげる。ウラちゃんにぁげる。絶対開けちゃだめだょ?」ヒメは浦島先輩に箱を渡した。
「熱いっすね。あれっすか。浦島先輩だから玉手箱っすか?」と俺たちがいった。
「ぅん。だから、絶対に開けちゃだめだから」
「わかった。絶対に開けね」といって浦島先輩は箱をゴミ箱に入れた。
 浦島先輩と俺たちは泣いているヒメを残して海に向かった。

 俺たちが亀をいじめていると浦島先輩がやってきた。
「なにしてんの?」
「ちっす。浦島先輩ちっす」
「浦島先輩、こんちゃーっす」
「うん。なにしてんの?」
「あぁ、あの、亀を」
「へぇ、俺も混ぜてよ」
「カットカット! あの、助けてくれません?」
「だってこいつ。むかつくんだもん」浦島先輩は亀を蹴った。
 正確にいえば亀ではなくて、亀役の太郎だ。
「ええと、じゃあ。どうしようかな。うーん」
「どうするの?」

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