やがて内側の鍵が開き、コンテナの扉が開きました。
千鶴が見たもの……それは親友・鶴子の変わり果てた姿でした。体はほとんど骨と皮だけで、落ち窪んだ目が鈍い光を放っています。
「何があったの? どうして鶴子がここに……」
そこで千鶴は、鶴子の背後にある、千鶴が使っているものと全く同じタイプの機織り機を見て、絶句しました。
……そんな、いや、まさか。
「千鶴の考えてるとおりだよ」
千鶴はあえぐように訊きました。
「……鶴子は、どれくらいここに?」
「三ヶ月くらい、かな」
道理で、鶴子が待ち合わせ場所に現れなかったはずです。
「ある日、空を飛んでたら、いきなり猟銃で撃たれたの。墜ちてからしばらくして、あの男がやってきた。男はあたしを小屋に運びこんで、必死に応急処置してくれた。あたしは、『自分を撃ったのはこの男じゃない』って思い込んだ……。怪我がだいぶ治った頃に、男はあたしを外に逃がしてくれた。でもさ」
鶴子はだしぬけに、ワンピースの襟元を、肩口が見えるまで引き下げました。鎖骨から左肩にかけて、痛々しい銃創の痕が見えます。
「撃たれたときの傷。表面上は塞がってるけど、関節とか、骨とかがおかしくなっちゃったみたいでさ。手が肩より上にあがらないんだ。だから、あたしはもう二度と飛ぶことができない」
「どうして待ち合わせ場所に来て、わたしに相談してくれなかったの?」
「……親友の自分には相談して欲しかった、って? ばっかみたい。千鶴に相談して、共感してもらって、なんになるの? あたしの羽はもう、元通りにならないんだよっ!?」
鶴子はハッとした表情になって、きまり悪げに下唇をかみました。
「ごめん、あたし、いやな子だね。でも、これが本当のあたし。今だから言えるけど、あたし、ずっと千鶴のこと、妬んでたんだ。キレイで、なんでもできる千鶴に嫉妬してた……。話それちゃったね。あたしは人間に変身して、あの男の小屋に戻った。鶴の恩返しってやつ。考えることは、みんな同じ」
どんな家庭でも、子鶴は親鶴から『鶴の恩返し』を聞かされます。
「あたしが反物を織り上げたら、あの男、大げさに喜んでさ。あたしが誰かに認めて貰いたがってること、見ぬかれてたんだろうね……。あの男は、しつこいくらいにあたしを褒めてくれた。あたしは、それが気持ちよくって、いつのまにか、あの男の頼みなら、なんだって聞くようになってたの」