「わ、わたしも……あなたのことが好き、です」
「千鶴と気持ちが同じでよかった。でも、このまま同棲を続けることはできない。だから、おれがここを出て行くよ。少し離れた場所に、廃材置き場があるんだ。そこに捨てられてるコンテナの中なら、雨風を凌げると思う」
「だ、ダメですっ!」
どうして愛する人に、そんな浮浪者めいた生活をさせられましょうか。元はといえば、押しかけた自分が悪いのです。
「……わたしがそこに住みます。機織り機と糸を運ぶのを手伝ってもらえれば、向こうでも機織りはできますから。夜は夕食を作りに、この小屋に戻ってきます」
反論しかけた男の唇を、今度は千鶴のほうから塞ぎました。
廃材置き場にはコンテナが十個ほど、雑然と並んでいました。男は車に積み込んでいた機織り機と必要最低限の生活用品を、コンテナの中に運び込みました。
男が小屋に帰った後、千鶴は一羽ぼっちになりました。明かりは、アウトドア用ランプのみ。廃材置き場を吹く木枯らしの音に寂寥感が募ります。
……あのひとが再出発するために、わたしが頑張らないと。
千鶴はやるせない想いを、機織りにぶつけました。
一週間が経ちました。
夜、千鶴はコンテナの片隅で、その日の朝に男がおいていったコンビニ弁当を食べながら、男の言葉を反芻します。
『月水金は、職業訓練校の連中と晩飯食べに行く決まりになった』
今日は月曜。千鶴は侘びしい食事を終えると、すぐに機織りの作業に戻りました。最近、機織りの進捗が芳しくありません。作業の遅れは睡眠時間を削ることでカバーします。反物作りにともなう羽抜きによって、千鶴の両翼はボロボロになっていました。
やがて、男は決まった曜日以外の日も、夕食を外で済ませるようになり、連日連夜の外泊が当たり前になりました。
しかし、男は毎朝の反物回収だけは、きっちりとこなしました。
「開けてくれ」
内側からロックを外すと、薄く鉄の扉が開き、コンテナの中に朝日が差し込みます。千鶴は男から、無断で扉を開けて外に出ないようにと厳命されていました。