祖母は反応した。
「そんな事は知るもんか。煩い子だね。猪が食べでもしたんだろうよ」
会話はそこで打ち切られた。これ以上何か言うと祖母の機嫌が悪くなることを、少年は経験から悟っていた。それでも少年は嬉しくて仕方がなかった。
翌日、祖母が河に洗濯に行っている隙に、少年はそっと村の子供達のところへ行った。祖母に禁じられている行為だが、少年は昨日の話しをしたくて仕方がなかったのだ。
少年は村の子供たちの前に立って、誇らしげに告げた。
「ぼく、桃太郎さんみたいに、桃から生れたんだよ」
薄汚い子供達は顔を見合わせた。少年は構わずに続けた。
「いつかぼくも、鬼を退治しに行くんだ」
薄汚い子供達は一斉にげらりげらりと嗤った。彼達は毎日親から虐待されているので、常に仲間うちの誰かを虐待しなければ気が済まない集団だった。彼等は今まで苛めの対象だった片足の子供を苛め殺した計りだったので、新たな攻撃目標を探していた。
「ほう」
「桃生まれか」
「なら疑う余地なく」
「お前は桃太郎の再来だな」
「ならばまず目出度いことである」
「今までお前を名無し氏と呼んでいたが」
「全くもって失礼なことであった」
「これからはお前のことを」
「桃太郎と呼ぼうか」
「桃太郎さん」
「もも」
そして彼等は、少年を中心に輪になって唄い始めた。