小説

『兄妹が産んだ誓い』梶野迅(夏目漱石『吾輩は猫である』『浦島太郎』)

 そして私の残したその声は決して消えることのない傷という形で心と体に残った。しかし父の国の住人はこの形見を大切にしなくてはならないと現実を受け入れた。
「もう二度とこんな形で生きたくない!」
「分かった。」
「これ以上私のような子どもを作って欲しくない。」
 これは私が死ぬ間際まで思っていたこと。本当はこんなに簡単に済むわけがない。父、母の身に起きた惨事を思うと私が直接手を下したもの以外にも傷が見える。

「私は罪深き存在だ。天国には行けないだろう。ただし父と母の様子が変われば生まれ変わる事はある。しかしその時は前の人生以上の凶暴なものとなっているだろう。」
「その時も君を止める方法はどうしたらいい?」
「父と母を説得してくれ。出来れば私が生まれないよう尽力してくれ。」
「分かった。」
「出来ればこの世にもうこんな姿で出てきたくない。」
 それが戦争という名の悲しき男と父と母の幼馴染との最後の会話だった。

 それを幼馴染から聞いた父は子どもにこんなことを言わせてしまったことを反省し、ある誓いを立てた。
「これから先、子どもが今回のようなことを言わないようにしっかりと人間関係を築いていきたいと思います。」
「そんなことできますか?」
「はい!できます。私から長男のような子どもが生まれるきっかけを作らないと宣言します。」
「では、近所の皆様にも協力をしていただいて悲しい子どもが生まれないように頑張りましょう。」
「はい。」
「そのために、まず亡くなった長男の母親にも協力を依頼しましょう。」
 それから三年が経ったある日、二人に子どもができた。近所の人はこの夫婦の子どもに注目していた。女の子だった。そしてその子は平和と名付けられた。
 その少女は母、父を幸せな気持ちにしてくれた。

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