小説

『兄妹が産んだ誓い』梶野迅(夏目漱石『吾輩は猫である』『浦島太郎』)

 私の名は戦争である。父親と母親は誰か分からない。しかし一つ分かる事は私が少しでも動けば悲しむ人が出るということである。私が指をピクッと動かせば北の街で死者が数万人出て、腕を動かせば南の街で死傷者が数百万人出る。父と母の幼馴染が私に泣きそうな声で言った。
「もうやめて。」
「やめてと言われても私にはどうする事もできないのです。」
「なぜですか?あなたの意志でやっているのではないのですか?」
「わかりません。父と母に聞いてください。」
「あなたに良心というものはないのですか?」
「良心があるように見えるのならば、それは私の心ではなく両親のうちのどちらかの心が見せている幻像にすぎません。」
「なぜそのようなことを言うのですか?」
「私は居てはいけない世界に生まれてしまったからです。」
「どんなものでも生まれていけないというものはありませんよ。」
「それは嘘ですよ。」
「なぜです?」
「私は生まれて間もないというのに巨大な体になり、世界各国に影響力を及ぼしています。そして極めつけは私の中に鬼が居るのです。」
「その鬼は退治できないのですか。」
「何度も退治しようとしました。しかし無理でした。」
「友達はいないのですか?」
「いません。なろうとしたものは全て目の前から姿を消し、私の中に入り込み巨大になりました。」
「なぜです?」
「仲間になろうとした者の心の闇を強く映しすぎたのかもしれません。」
「あなたが平和に過ごせる世界を考えませんか?」
「もうこの地球から姿を消すしか方法はないのです。」
「それでもあなたの力になりたいのです。」

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