鳥たちが一斉に鳴く。おばあさんの言葉に拍手するみたいに。私を勇気づけるみたいに。おばあさんは、一羽一羽に手で餌をやって、一羽一羽に声をかけていった。すべての鳥の食事が終わるころには、ずいぶんと時間が経っていた。するとまた、おばあさんは私に餌を与えはじめた。おばあさんの皺に汗が流れた。皺は川のようで、顔は地図のようだった。
僕たちが森に入ることにしたのは、ふたりっきりになりたかったからだ。もちろん、家のなかでだってどこでだって、ふたりになることはできた。でも、完全にふたりっきりではなかった。絶えずだれかに見られているような気がしていた。最初は、気にし過ぎだろうと思った。彼女がだれかに取られるんじゃないかと、心配になっているだけだろうと思った。でも、ちがった。映画館にいるときも、トイレにいるときも、ふたりでベッドに入っているときも、床にコップが落ちて砕け散るその瞬間も、なにかが見ていたんだ。僕たちは見られていた。それだけじゃない。頭のなかで思ったことさえ、筒抜けになっているみたいだった。ちょうど、彼女の背中に赤い線が入って、それが以前の傷跡と結ばれて、オリオン座のようになったときだ。彼女が悲鳴を押し殺している傍らで、僕の体が悲鳴を上げた。なにかが突き刺さっていた。目だった。あんたの視線が、僕を貫いていた。僕は非難されているような気がして、そういう気がすることも、あんたに見透かされていた。いや、あんたが僕をそういう気にさせているみたいだった。僕はついに視線に耐えきれなくなって、部屋を飛び出して空を凝視した。穴が開くほどに見つめた。すると、あんたがいた。あんたが、真上から僕を見下ろしていた。太陽や月がそこにあるように、あんたがいた。ふたつの、いや、無数の目が僕たちを見ていた。僕はそのことを彼女に告げたが、彼女にはあんたが見えていないようだった。
あんたのことが見えたからといって、僕にはなにもできなかった。それどころか、あんたを認識したことによって、一層苦しんだ。僕と彼女だけの愛情を、だれかに覗き見られているなんて耐えられなかった。あんたをこの世界から退場させないといけないと思ったが、なにもできなかった。月に手が届かないように。だから僕たちは隠れることにした。建物の殻を見透かされても、森なら安心じゃないかと思った。魔女が住むなんて噂されている森があって、実際そこは多くの女が行方不明になっている森だった。そこなら、陽の光が届かないように、あんたも見通せないのではないかと思った。超自然的な森だったら、対抗できるんじゃないかと思った。僕たちは森に入っていった。