小説

『与吉と台風』襟裳塚相馬(『画図百鬼夜行』)

「こ、こりゃあきっと与吉さんの描いた絵が入っているに違いねぇ、一体どんな絵が……」
「うわあああ!!」

 その絵に驚いた漁師はすぐに街に持って行きます。
 そして街の瓦版に張りましたが
「な、なんだ!?これが台風の妖怪なのか!?」
「ひいいい!だ、ダメだ!おいらはもう見たくねぇ!」
「お、俺もだ!こんな絵二度と見たくねぇ」
 与吉の見た絵を見た者は、口々に悲鳴をあげて逃げていきます。
 そして誰もいなくなった頃、話しを聞いた石燕が瓦版の前にやってきました。

 話しを聞いていた石燕はいつものように与吉の真似をして、その妖怪画を描こうと思っていました。しかしその絵を見て、すぐにその考えを変えてしまったのです。
「こ、こんなにも恐ろしい妖怪が台風にいるのか。しかしこの恐ろしさ、私には表すことが……」
 模写することを諦めた石燕は、その絵の恐ろしさ口にします。
「台風にいるのは龍ではない!」
「台風には……目があるんだ!」
 与吉が最後に残した妖怪画。その絵には空に浮かびながらこちらをぎろっと睨む巨大な目玉が描かれていたのでした……

 こうして与吉の描いた絵は石燕に描かれることなく、この世から消えてしまいました。
 しかし絵は無くなってもその妖怪の姿が、完全に見れなくなったわけではありません。
 だってそいつは、今も台風に潜んでいるのですから……

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