小説

『与吉と台風』襟裳塚相馬(『画図百鬼夜行』)

 そんなある日。街では与吉のライバルの妖怪絵師・石燕が与吉の描いたことのない台風の妖怪を描いたと話題になりました。驚いた与吉はすぐに石燕の絵を見ました。
 そしてすぐに
「これは台風の妖怪ではない!これはとある国の架空の生物『龍』というものだ」
「こいつが書いたのはでたらめだ!」
 しかもそれまでも石燕の書く絵はほとんど、与吉の絵の真似をした妖怪ばかり。
 与吉は絶対に違うと断言します。しかし石燕は
「なんでこいつが偽物だとわかるんだ!そうまで言うなら、本物の台風の妖怪を描いて見せろ!」
 もちろん与吉は見たことがないので描くことはできません。
 だけど、悔しさのあまり
「よしわかった!今度の台風の日、俺はどんなことをしてでも妖怪を見る!そして必ず描いてやる!」
 そう啖呵を切ってしまったのです。

 その日から与吉は台風に備え、ありとあらゆる準備をしました。
 遠くまで見えるメガネ、どんな風にも負けない傘、そして頑丈な舟。
 もちろん大量のお金かかりましたが
『これは絵師としての自分の意地だ』
 そう自分に言い聞かせ、台風に向けた最善の準備をしたのでした。
 そして全ての準備が整った数日後。与吉の家に
「よ、与吉さん!台風だ!海に台風が現れた!」

 その言葉で飛び跳ねた与吉は、すぐに海岸に行き舟を出そうとします。
「あぶねぇ、こんな日に舟を出したら死んじまうぞ!」
 そんな漁師達の言葉を聞いても与吉は
「うるさい!どけぇ!俺は今日こそ台風の正体を暴くんだ!」
 そう言って漁師達の静止を振り切り、与吉は海に出てしまったのです。

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