小説

『双子の山羊』宮城忠司(北欧神話『タングスニとタングスニョースト』)

 還暦を機会に亮三は勤務先を退職し、口能登の里山に帰って年老いた母との暮らしを満喫していた。時々は県境から四里の道を車で下って海を見に行くことが楽しみの一つになっていた。
 亮三は砂浜に寝転び、生きとし生きるものの宿命、優しさと悲しみ、侘びしさと愛おしさ、生への尊厳と相対していた。そして、粛然として千里浜に沈む茜色の夕陽を、夕星が光輝くまで見つめていた。

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