もとい、一寸法師は、間違えていたのです。なぜなら一寸法師の体は、戦いを終え、桃太郎から這い出て、脱力した瞬間に、桃太郎の手の内に収まっていたからです。一寸法師は正しい分析をしていながら、その強靱さを見誤ったのです。桃太郎にはやはり、無防備など存在しませんでした。相手が最も油断し、確実に勝てる瞬間を狙うため、あえてその身を危険に晒していたのです。
桃太郎が一寸法師の首をはねると、いつの間にか桃太郎・金太郎・浦島太郎は、砦に来ていました。桃太郎が上陸した、鬼ヶ島にある砦です。桃太郎と一寸法師が戦ったのも、この場所だったかのように感じられます。
そして桃太郎は、美しい娘と、犬・猿・雉に迎えられます。犬・猿・雉は桃太郎の語っていたお供であると、見張っている金太郎はすぐに理解しました。娘は、鬼に拐かされて、桃太郎に救い出されたのだということも推測できました。しかし理解できなかったのは、娘の持っている小槌でした。小槌をもった娘が、なぜ桃太郎を歓迎するのか。
次の瞬間、娘は桃太郎にむかって小槌をふりました。すると、一寸法師との戦いで傷ついていた桃太郎は、みるみるうちに回復していきます。小槌には、魔か不思議な力があるようです。それだけではありません。桃太郎の体が、ぐんぐんと巨大化していくのです。そして山ほどの大男となった桃太郎は、娘の体をひょいとつまんで自分の肩に乗せると、三匹のお供とともに、地響きを鳴らして消えていきました。
むしろ、消えたのは金太郎と浦島太郎だったのでしょうか。金太郎と浦島太郎は、どこともつかない海辺にいました。そこで金太郎は逡巡します。桃太郎には、物語の『結末』が見えていた。しかし、桃太郎の物語にとって、小槌で巨大化することになんの意味があるのか。
半ば答えを見つけながら、金太郎は、おびえて体を伏せている浦島太郎に尋ねます。
「なぁ、浦島太郎よ」
その声に、浦島太郎はいっそうびくっとおびえます。
「わしは、わからんのじゃ……。奴らは『結末』が見えたと言うとった。だが、わしの『結末』は、どうももやがかかったように曖昧で、見えなんだ。しかし、しかしだ。人間の『結末』なんぞというものは、死ぬときその時まで、見えないのが尋常じゃありゃせんか。浦島太郎よ。狂うているのはわしとやつら、一体どちらじゃ」