図書館に隣接したカフェで、軽く食事をした。王子はほとんど何も食べなかったが、鈴のような笑い声で、よく笑った。
その夜、王子は、汐穂の部屋の手狭なソファでぐっすりと眠った。細い身体を子供のように丸くして……。窓辺に立つと、夜露をたたえた紫陽花の葉が、月明かりを受けて艶やかに輝いている。汐穂は、祈るような気持ちで、星空を見上げた。
次の日は、お弁当を持って、公園に行った。王子は、子供たちが遊びまわる様子を眺めているのが好きみたいだった。子供たちが笑うと、王子も声を出して笑った。
その次の日は、ディズニーランドに行った。スペースマウンテンに乗ったときの王子のはしゃぎようといったら、ちょっとなかった。
4日目は、映画館。王子は、途中から寝てしまっていた。
5日目は、大きなショッピングセンターに買い物に行った。王子は買い物よりも、エスカレーターに乗るのを面白がった。
そして6日目は、お台場の海に……。
砂浜に座って、夕陽を眺めていたら、王子が独り言のように言った。
「僕は、入り日を眺めるのが好きなんだ」
「入り日って、夕陽のことでしょ?」
「悲しいときって、入り日が見たくなるものだろう?」
「何か悲しいことがあったの?」
「僕の星にはひとつ特別な花があるんだけど、その花がちっとも素直じゃないんだ」
「特別な花?」
「僕が毎日世話をした花だからね」
そのとき汐穂は、とても大切なことを聞いたような気がした。でもそれよりも、王子がどこかに消えてしまいそうで、居ても立ってもいられなかった。