だが、すでに私の矢は手元からはなれていた。
矢はまっすぐにその鳥へと向かっていく。
恐らく矢は鳥の額を射ってしまうに違いない。
なんとなく、そんな気がした。
そのとき、ふいに私の頬を生温い汗が伝っていった。
その汗はどろりとしていて、鉄サビのような臭いが鼻についた。
見ると、射られる直前に鳥が顔を半分ほど上げていた。
ひどい、悪寒がした。
忘れていたことを思い出させるような、粉々のあのカーブミラーの欠片が繋がるような…思い出してはいけないものを思い出すような…そんな気がした…。
そうして、鳥が顔を上げた。
『いつまで』
鳥が、声を出した。
私はその顔を見た。
そうして、私は悲鳴を上げた。
声すら気体に変わるような金切り声で悲鳴を上げた。
そこには、ガラスの破片の突き刺さった血まみれの顔があった。
どろりとした、汗のように滴る血まみれの顔だった。
それはまるで地面に落ちたカーブミラーの破片に映った、自分に似た顔の…。
そのとき、矢が鳥の眉間に突き刺さった。
鳥が、再度鳴いた。
『いつまで』
その途端、思い出したかのような急ブレーキの音が私の耳に鳴り響いた…。