小説

『私の桃源郷』秋山こまき(『アラジンと魔法のランプ』)

 しかし今、目の前にいるこの親子なら間違いはないだろう。二人とも本当にやさしい顔をしている。私を幸せにしてくれるだろうし、私としてもこの母と娘を幸せにしてやりたかった。
 私はこの女と結婚し、そして娘の父親となり三人で暮らした。
 私は喜んで二人の望みを何でも叶えてやった。家、宝石、洋服、おもちゃ、人形など何でも与えた。彼女たちは心から感謝した。
 が、時が経つにつれ、その幸福が、その贅沢が当たり前のようになり、妻はありがたさを忘れ、娘も小生意気になった。二人は、臭い、汚い、うっとうしい、と私をなじるようになり、無視するようにもなった。
 私は失意に打ちのめされて、家を飛び出した。
 気がつくと、海辺に来ていた。
 この日、海は荒れ狂い、空には暗雲たれ込めていた。まるで、私の心境そのものだった。
 私は理想とあまりにもかけ離れた現実にうなだれた。砂浜にひざまずき、頭をかかえ、天に向かって叫んだ。
「誰か、誰か、ここから救い出してくれっ!」
 と、その時だった。
 灰色の空に、ポッカリと小さな穴が開き、そこから金色に輝く光が差し込んだ。
 私は確信した。今度こそ、あの穴の向こうには、私の望む世界が、私の桃源郷があることを。
 

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