「いやだおぼろったら。そのようなどじが、あるはずないわ」
ああ可笑しい、と姫は目尻を拭いながら笑っている。
その姿を見ているうちに、朧の感傷もいくらか和らいだ。
「私たちがこうしてお話しているように、地球の方々も月のことをあれこれ噂しているのでしょうか。もしかするとどなたかが、姫さまへ月のお話をお聞かせくださるということもあるかもしれませんね。そう考えると面白いものでございます」
姫はそれを聞くと、また笑った。
「おぼろったら、本当に面白いことを考えるのね。でも、そうね。そうかもしれないわ。もしそんなことがあったら、月を見上げて合図をするわ」
朧は地球からの姫の合図を想像してみる。
姫が月へ戻るまでの寂寞は、それで僅かなりとも埋められそうな気がしてきた。
「さ、目が覚めたら地球へ出立しなければなりません。そろそろお休みなさいませ」
朧は姫へ布団をかけ直し、自分の寝台へと向かった。
窓の外で青い地球が輝いている。