「次は火鼠の皮衣というもので、唐土というところにございます。火をつけても燃えない、世にも珍しい皮衣だそうです」
「もろこしっていうのも遠い?」
「そのようにうかがっております。簡単に手に入らないからこそ恋い焦がれ、大げさに伝わる。そういう側面もあるかと思いますが、とにかく地球というのは広うございます。珍しいものや美しいものだけをひとまとめにしておくことは出来ないのでしょう」
朧が言うと姫はしばらく首を傾げていたが、やがて口を開いた。
「ねえおぼろ、他にもあるのでしょう?それも遠いところに行かなければ見られないの?」
「そうですね・・・遠いかもしれないし、近くにあるかもしれない。朧にもよくわからないのでございます」
「なぞかけみたいね」
姫は可笑しそうに笑顔をみせている。つられて、朧の顔にも笑みが浮かぶ。
「姫さまは、龍はご存知ですか?」
「ええ。ものすごく大きくて、強い生き物でしょ?」
「さようでございます。なんでも、その龍というのは、首に五色の玉がついているそうです」
朧がそこまで言うと、姫が声をあげた。
「わかったわ。龍の居場所がわからないから、遠いか近いかわからないのね」
「さすが姫さま。仰る通りでございます。姫さまが龍をご覧になるとすれば、朧にとっては嬉しいような恐ろしいような、そういう心持ちがいたします」
姫はふふっと笑う。
「おぼろは心配性ね」
「朧にとって姫さまは、何にも代えがたい大切な方ですもの。仕方がないことでございます」
むきになって朧が抗弁すると、姫は瞳をくるりとまわしてみせる。愛嬌があって、何とも愛くるしい。
「約束するわ。絶対に危ないことはしないって」
「お願いいたしますよ。朧を悲しませるようなことは、くれぐれもなさらぬよう・・・」
「ね、最後のひとつって?」
朧の心配をよそに、姫はそちらに興味津々といった様子だ。朧は苦笑しながら答える。
「燕の持っている子安貝、でございます。燕は龍よりたくさんおりますが、ところがこれを見つけるのは至難であると申せましょう。といいますのも、どこの燕が持っているのか、果たして持っている燕がいるのかすら定かではないのでございます。ですから、もし探しにお出かけになっても、熱中しすぎて高いところから落ちたりなさいませぬようお気をつけくださいませ」