小説

『竹取られ前夜』左竹未來(『竹取物語』)

「ちきゅうに行くのが、少し楽しみになったわ」
 さらにそう加えられ、朧はすっかり得意になる。他にも朧が知っている地球の知識を披露したくなった。幸い、姫はまだ眠れないらしく、瞼を閉じていながらも、もぞもぞと身じろぎしている。
「地球には、とっても珍しいものがあるそうですよ。朧が知っているものをいくつか姫さまにお話いたしましょう」
 すると姫はぱちりと目を開き、朧を見た。
「なあに?聞かせて」
 きらきらした瞳に好奇心が浮かび、朧は後悔した。ゆっくり眠らせてやらなければいけないのに、すっかり目を覚ましてしまった。それでも、この姫の性格だ。言い出したらきかないに決まってる。今更取り下げるわけにもいかず、朧は姫に語りはじめた。
「朧が存じているのは、五つでございます。ひとつめは、佛の御石の鉢というものです。それは天竺というところにあるそうで、なんと光を宿した鉢なのだそうですよ。けれど、姫さまがお過ごしになるところから天竺は、とっても遠いのです。ですから、もし姫さまがお探しになられるとしたら、地球での日々の大半を費やすことになってしまうでしょう」
「素敵だわ。てんじくというところへも行ってみたい」
「ええ、姫さまでしたらそう仰ると思いました。でも、それだけではないのですよ。銀の根、金の莖、白玉の實を持つ枝というのもあるそうです」
「想像しただけで溜息が出るわ」
 姫は実際に、溜息をつきながら感嘆した。
「朧もでございます。その枝は、東海の蓬莱山というところにあると聞いております。仙人の住む島ということですよ。ただ、こちらも遠いのです」
「仙人に会えるのなら、行ってみようかしら」
「姫さまにお任せいたしますが、お世話になるご夫婦とよくご相談なさってくださいね」
 姫はこくりと頷き、朧に続きを促した。
「まだあと三つ、あるのでしょう?一体どういうものかしら」
 

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