「どうかなさいましたか。朧にお手伝い出来ることがありましたら、仰ってくださいまし」
姫は少し考えたのち、いった。
「お話を聞かせて。おぼろのお話を聞いていると、とってもよく眠れるの。もしおぼろが眠くなかったら、だけど」
こんな時でも相手を慮ることを忘れない姫の優しさに、朧は心を打たれた。
「姫さま。勿論でございます。朧は、姫さまにお話をお聞きいただくのが楽しみなのですから。今宵はどんなお話にいたしましょう」
「ちきゅうのお話をして。おぼろが知っている、ちきゅうのお話を聞きたいわ」
その言葉で朧は、姫がこれまで不安を押し隠し、平静を装っていたことを知った。いじらしさに胸が熱くなる。
「地球の人々の人生は、私たちのものよりもずっと短いのです。ですから、これから姫さまが共にお過ごしになる予定の老夫婦も、こちらの年月に換算するとまだ幼子といったところなのですよ。そうお考えになると、なかなか面白いものでございましょう?」
朧がいうと、姫はくすりと笑った。
「そうね。とっても不思議だわ」
「姫さまは、今のお姿のままあちらへ行かれますので、地球でいうと赤子といったところでしょうか。三月もすれば大きくなられますから、それまでは赤子らしくお振る舞いになりながら様子を窺うのもよろしいかもしれないと、朧は思いますよ」
姫は大きく頷いて、何やら考え込んでいる。
「いずれにせよ、姫さまが共にお過ごしになるご夫婦は地球で善行を積んだ方ということですので、きっと姫さまにもご親切にしてくださることでしょう」
いいながら朧は、布団の上から姫をぽんぽんと叩いてやる。すると姫はほっとしたように目を閉じた。
「ありがとう、おぼろ」と声にする。
朧はそれを聞くと、肩の荷が下りたような心持ちになった。