「帰りは凄く落ち込んでいました」
「なぜ落ち込んでいたのでしょうか? 他にどんなことを話されたんですか? 旅に出た理由がぜんぜん分からないんです。私を嫌いになったんでしょうか? もし私に原因があるとしたら、いたらない部分は必ず直します。何かそれらしいこと、本当に言ってなかったですか?」
すがるように彼女はたずねた。目は潤んでいて、それ一つ取ってみても彼女がどれだけ須川を愛しているのかよく分かる。僕を見つめているものの、僕など眼中にないようだ。
彼女を初めて見た時、もしこの子が僕の恋人だったら、どんなに素敵なことだろう、と幾度も夢を見た。
――秋子さんのためなら、何でもする。死んだってかまわない。
それほどまで思いつめた。
そんな彼女を虜にした須川が羨ましかった。いや、須川が虜にしたというよりも、彼女の方から虜になっていったのだ。須川が今まで付き合ってきた女は皆そうだ。女の方から須川に迫っていったのだ。
須川は美男子だ。その甘いマスクにより、昔から女の子には騒がれていた。だけど須川はそれを鼻にかけることはなく、物静かな男で騒がれることなど迷惑がっていた。そしてどの女たちとも長続きはしなかった。一人静かに本を読む。それが須川のイメージだ。
実は、秋子さんと知り合ったのは須川より僕の方が先なのだ。ある社会人のサークルで彼女を初めて見た。一目惚れだった。
いつか食事を、と言い出すチャンスを狙っていた。
そんなおり、僕はこのサークルに須川を誘った。須川は女の子に自分の方から声をかけるタイプじゃない。そう安心していたが、彼女の方から須川に言い寄ったのだ。
須川を誘ったのが間違いだった。胃が痛くなるほどの嫉妬、憎しみに近い感情さえ覚えた。無二の親友、須川に。