小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

 

 動物病院の帰りにホームセンターに寄ってもらい、簡単に組み立てられる犬小屋と柵を買った。恵子に家まで送ってもらい、また近々ご飯を食べに行く約束をして車が見えなくなるまで見送った。
玄関を開けるとはらりと紙が地面に落ちた。隙間に挟んであったらしい。二枚あるうちの一枚はシロのビラだった。シロの写真と、迷子犬預かっていますという文字。連絡先は直也の家の番号だろう。もう一枚は『ビラを作ったので持ってきました。お店や、掲示板に貼らせてもらっています。留守だったので明日また来ます。直也 おじちゃんまたあそびにくるね! 咲也』と書かれていた。学校帰りに寄ってくれたのだろう。
 桜の木の近くに犬小屋を作り、五畳ほどのスペースを柵で囲み、リードをはずしてやるとシロは嬉しそうに走り回った。
「これからは習慣を増やさないといけないな。朝の散歩と、十六時の散歩はシロも一緒に行こうな。」
 シロに話しかけると、また分かっているかのように、ワンと鳴いた。

 次の日、直也と咲也が学校帰りに寄るだろうということでいつもより早めに散歩を終え家にいると、チャイムが鳴った。玄関を開けると、二人以外にも子供たちがおり、シロと遊ばせてくださいと言った。裏庭に案内すると、歓声をあげながら喜んだ。大人しいとはいえ、急に噛み付いたりすることがないように、リードを短くもちシロを健一の股の間に座らせ、一人ずつ撫でるように言った。大勢の子供にいきなり触られるとシロがびっくりしてしまうだろうとも思ったからだ。そんな心配はよそに、子供たちはシロを丁寧に撫で、シロも相変わらず大人しかった。
「おじちゃん。シロ幸せそう。飼ってくれて有難う。」
 シロを撫でながら咲也が言う。
「いやいや、お礼を言うのは私のほうだよ。シロや、君たちと出会えて嬉しいよ。」
 そう言うと子供たちも嬉しそうに笑った。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13