小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

 家に帰り付き、シロを玄関に繋ぐ。
「幸い庭で自由に遊ばせることが出来るから室内で飼うよりも外で飼ったほうがよいかもしれないわ。真冬は玄関かしら。明日の午後、恵子さんに動物病院へ連れて行ってもらったあと、小屋を買って帰りましょう。」
 保健所と警察に連絡を終え、明日やることを紙にメモしている紗代子はとても嬉しそうだ。

 翌日、お昼前にシロのシャンプーをした。
「気持ちいいか?」
 ぬるま湯で泡を落としながら尋ねると、言葉が分かっているかのようにワンと鳴いた。弱風のドライヤーを当てている間も目を閉じてリラックスしている。こんなに大人しい犬もいるものなのだなと感心しながら健一は丁寧に乾かした。
 ドライヤーが終わり、シロの隣で体を撫でてやると、尻尾がパタパタ揺れる。ずっと撫でていると、尻尾の揺れはおさまり、スーピーと音をたてながら眠ってしまった。
 十四時ピッタリに外でクラクションが鳴る。恵子だ。玄関前で準備していた健一と紗代子はすぐに家を出た。健一がシロを抱いて後部座席に乗り込む。後部座席にはレジャーシートが敷かれていた。
「恵子さん。すまないね。車の掃除代は出すから。」
いくら恵子とはいえ、自分の車を汚されてしまったら気分がよくないだろう。
「何言っているの。二人の頼みなら私はなんだってするわよ。それに、最近通販でハンドクリーナー買ってさ。それの威力がすごいのよ。犬の毛くらいすぐに取れるわよ。」
 嫌味のない性格に感謝しつつ、この間食べたレモンのチーズケーキのお礼も言った。
「美味しく食べてくれる人が側にいてくれるのが私の幸せだよ。それにしても犬を飼うことになったって聞いたときは驚いたわ。綺麗な柴犬だね。白い柴犬はここら辺じゃ珍しいしすぐに本当の飼い主見つかるんじゃないの?」
バックミラー越しに恵子がシロを見て言った。柴犬も色々な種類がいるが健一も真っ白な柴犬はテレビでしか見たことがなかった。
「そうね。でも見つかったらそれも少し寂しいわね。」
「やっぱり複雑よね。こんなに可愛いし。車に乗っても大人しいなんて昨日電話で聞いた通り飼いやすそうな子だもの。」
 恵子も感心した通り、シロは車内でも、動物病院の注射でも、暴れたり怖がったりすることなく大人しかった。
 

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