小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

「ええ。ただ、ビラ配りは協力お願い出来るかしら。」
「もちろん!兄ちゃん、いいよね?」
 やりとりを見ていた兄も頭を下げてお礼を言った。
「俺は森山直也です。こいつは咲也。あの、失礼ですけど咲也とは知り合いですか?」
直也もランドセルを背負っていたが、小学生にしては話し方が大人びてみえた。
「知り合いというか、家の前でたまたま会って話をしたことがあってね。私は鈴木健一、そして妻の紗代子だ。学校近くに桜の木を植えている家を知っているかい?」
「あ、知っています。いつも見ていました。ここ数年咲かないですよね。」
「ああ。そこが私の家でね。よかったらシロに会いに遊びに来てやってくれ。たいてい家にいるから。」
「有難うございます。じゃあ、ビラを作るのでシロの写真を撮って今日は帰ります。」
 そう言うと一枚撮ってまだ遊びたいとぐずる咲也と、他の子供たちを連れて帰っていった。
 シロの首にはピンク色のリボンが巻かれ首輪替わりになっていた。リードもサテン生地のリボンだ。心もとなかったが、シロは暴れることなく紗代子を見上げながら同じ速度でついてきた。
「賢い子ね。躾もきちんとされているみたい。飼い主さん必死に探しているかもしれないわ。保健所と警察にも連絡をいれておかないと。あと、動物病院に連れて行かないとね。明日恵子さんに車を出してもらえないか聞いてみるわ。」
 帰る途中にホームセンターへ寄り、シロの首輪とリード、シャンプー、ご飯と水の容器、ドッグフードを買い、紗代子はやることを整理するように話した。
「やけに詳しいな。」
「昔犬を飼っていたことがあるのよ。亡くなったときはあまりにも悲しくてそれからは飼えなかったの。でも、やっぱり可愛いわね。」
 一度も飼ったことのない健一は不安だったが、紗代子が昔飼っていたことを聞いて安心した。
 

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