「綺麗ですね~。」
「そうですね~。」
「ねえ、これが花見なの?花咲いてなくない?」
「綺麗だねって思う気持ちが大切なんだよ。美央ちゃんも綺麗だって思うでしょ?」
「えー。ただの葉っぱじゃない。桜の花を見るのが花見だよ。」
「僕もそう思っていたところ・・・。」
「瞬君さっきはそうですねって言っていたのに。」
「綺麗か綺麗じゃないかって言われたら綺麗なような気がしなくもないし。」
「えー。何それおかしい~。」
よく見ると、午前中に会った男の子がいる。どうやら、健一の話を聞いて、お花見ならぬお葉見をしようとしていたらしい。
「あ!おじちゃん。どうしてここにいるの?」
健一を見つけると、男の子はキラキラした目で走ってきた。
「散歩していたんだ。君は友達とお葉見かい?」
「うん。でもさ、めでるってよく分からないや。」
「ははは。桜の花が咲く季節にやってごらん。今日より分かるかもしれないよ。」
「桜って四月でしょう。四月じゃ遅いんだ。」
「遅いってどうして?」
「ううん。何でもない。おじちゃんまたね!」
そういってまた走って友達のところへ戻っていった。
「あなたにあんな可愛らしいお友達がいたなんてびっくりですよ。」
紗代子が目を丸くしてこちらを見ている。午前中の出来事を話すと納得した。
「家の桜が咲けばあの子にお花見させてあげられるのにね。でも四月では遅いってどういうことかしら。」
不思議そうに首を傾げるが、健一も分からなかった。
三キロほどの散歩コースから帰りついたのは十七時を過ぎていた。紗代子は夜ご飯の準備に取り掛かり、健一はお風呂掃除をすませ給湯し、洗濯物を取り込み、障子を閉めた。