小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

「美央ちゃんのアイディアだよ。最後の思い出にお花見が出来たらと思って。今日はたくさん食べて、たくさん飲んで、皆で騒ごう。」
そう言うと、直也は出会ってから初めて笑った。
「綺麗ですね~。」
「そうですね~。」
「えー。本当に思っている?」
「今回は思っているよ。」
「あはは。うん。私も今回は綺麗だなって思う。」
「これが愛でるってことなんだね。」
しみじみと咲也が言うのを聞いて周りの大人は吹き出した。
「幸せね。」
歌うように紗代子が言った。

 朝起きると洗面台に行き、顔を洗ってうがいをする。居間の障子を開け朝日を部屋の中へ招き入れる。紗代子におはようと声を掛け、トイレと玄関を掃除する。変わらない日常。一つだけ変わったのは、庭に桜の苗木が植わっていることだ。引越しの日、直也と咲也がお小遣で買ったと言って渡してくれた小さい苗木だった。
 いつかまた帰ってきたときに綺麗な花を咲かせるように、桜の成長を見守るのが健一の日課の一つになった。

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13