小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

「うん。ママに聞いたらここら辺の桜が咲くのは四月中旬なんだって。桜が咲かないなら、私たちで咲かせればいいと思うの。そ、こ、で、じゃーん!」
そう言って美央がカバンから出したのは紙で作った花だった。
「皆で運動会の時に作ったのを思い出したの。桜にはちょっと見えないけど、これをたくさん作って木にくくったらそれっぽく見えないかな。」
健一と紗代子は顔を見合わせ思わず笑った。そうして思い出した。葉見をしていた咲也が『桜って四月でしょう。四月じゃ遅いんだ。』
と言っていたことを。
「美央ちゃん。すごいアイディアね。私たちも協力するわ。この家の桜の木が随分前から咲かなくなっちゃったのよ。この木に満開の桜を咲かせましょう。」
花作りに必要な材料を買い、二日後にお花見をやろうと決めた。宴会のご飯は紗代子と恵子。当日の飾りつけは健一と子供たちで行う。花は出来るだけ木を傷つけないように輪ゴムではなくリボンで縛ることにした。

 花見当日、前もって美央が直也と咲也に健一のところへ行く約束をしていてくれたので二人は疑うことなくやってきた。裏庭へ連れられてきた二人はそこに大勢の友人や大人がいることに驚いた。
「さぁさぁ、お二人さん。もう少し近くに寄ってらっしゃい。枯れ木に花を咲かせましょう。そーれ。」
健一の掛け声と一緒に、二人に見えないよう布を広げていた恵子と紗代子が手を離すと桜の木が現れた。ピンク色の紙で作られた花はいびつながらも満開の花を咲かせている。
「わー!」
咲也は驚きながら桜の木へ近づく。直也もその後に続き、
「これ・・・皆で?」
周りを見ながらどう言ったらいいのか戸惑っていた。
 

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